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心を守る空間と発信のバランス—臨床心理士の視点から
心は目に見えないものです。そのため、心についての理解やケアの重要性が広く認識されることは、まだまだ難しいと感じています。現実として、心理支援の分野には十分な予算が割かれておらず、社会的な認知度も十分とはいえません。
しかし、だからこそ、私たち臨床心理士が発信していくことが必要なのではないかと考えています。ただし、心の領域を扱う専門職としては、発信に慎重にならざるを得ない事情もあります。今回は、臨床心理士が情報を発信することの重要性と、その難しさについてお話ししたいと思います。
心は見えないものだからこそ、理解が難しい
「心の状態が良い」「心が傷ついている」といったことは、目に見える形で確認できるものではありません。例えば、医療分野では、レントゲンや血液検査のように数値化できる指標があり、治療の成果も分かりやすいですが、心の領域ではそうはいきません。
そのため、心理支援がどのように役立つのか、またその価値がどこにあるのかを伝えることが難しく、国家レベルでも心理支援に十分な予算が割かれにくい現状があります。近年では心理学の重要性が少しずつ認識されつつありますが、まだまだ発展途上だと感じます。
臨床心理士が発信しづらい理由
心理学の知識を発信すること自体には大きな価値がありますが、臨床心理士が発信をためらう背景には、クライエントの心を守る必要があるからです。
カウンセリングの場は、クライエントが安心して心を開ける「守られた空間」であることが重要です。そのため、たとえクライエントが「話してもいい」と了承したとしても、その情報が公になることで心の動きに変化が生じる可能性があります。また、心理支援の内容が一般に誤解されることで、クライエントに不利益が生じるリスクもあります。
このような理由から、臨床心理士の多くは慎重な姿勢をとっており、積極的な発信が少ないのかもしれません。
それでも発信は必要ではないか
とはいえ、私たち臨床心理士がまったく発信しなければ、心理学の価値が広まらず、「何をしている人なのかよくわからない」という状況が続いてしまいます。心理学の知識や、心の健康を守るための考え方が広まれば、より多くの人が心理的なサポートを適切に活用できるようになります。
そこで大切なのは、「心を守る空間」と「発信のバランス」をどう取るか です。
- クライエント個人の情報は守りながら、心理学の基本的な知識や考え方を発信する
- 心理支援がどのようなものなのかを、一般の人にもわかりやすく伝える
- 誤解を生まないように、専門的な情報を適切な形で共有する
こうした発信が増えれば、心理学やカウンセリングに対する理解も深まり、社会全体で「心のケア」の重要性がより認識されるようになるのではないでしょうか。
心理学の知識を、安心できる形で伝えていく
心を守ることと、心理学の価値を伝えること。この両立は簡単ではありませんが、それでも心理学を必要とする人に届けるための努力は続けていきたいと考えています。
「心の専門家」としての役割を果たしながら、安心して心を開ける場を守りつつ、必要な知識や情報を発信する。そのバランスを模索しながら、これからも皆さんに有益な情報を伝えていきたいと思います。
心理相談室あじさいのへやでは、安心して話せる空間を提供しながら、自己理解を深めるサポートをしています。心のことに関心がある方や、カウンセリングについて知りたい方は、ぜひお気軽にご相談ください。